上場企業各社の配当方針(株主還元方針)には、株主への利益還元について、その企業がどのような姿勢なのか、企業の経営陣の考え方や企業文化が表現されています。
配当方針は、各社がホームページや決算説明資料などで公開していますが、これは株主や国内・海外の投資家に対する対外的な約束ですから、その企業にとって非常に重いものです。
そのため、配当方針の言葉の作成にあたっては、各社が細心の注意を払っています。
配当方針は、さらっと書いているように見えても、一つ一つの単語、句読点に至るまで、社長・財務担当役員を含め、何人もの関係者が目を通し、何重にもチェックされています。
それだけ、配当方針は、株主・投資家の関心が高く、企業にとっても重要な内容だからです。
この配当方針の文言を注意深く読むことで、企業の本気度や本音が見えてきて、高配当株の投資先の選択に役立ちます。
以下では、減配しない累進配当ブラザーズの配当方針をチェックして、内容を確認してみたいと思います。
いろんな企業が、配当方針について、どのような書き方で表現しているかを比べてみると、結構楽しくて面白いですし、何より投資の役に立ちます!
高配当株各社の配当方針
1.三井住友フィナンシャルグループ
『株主還元は、配当を基本に、機動的な自己株取得も実施してまいります。
配当は、累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります。
また、自己株取得は、資本の状況、業績動向、当社株価の水準、成長投資機会、資本効率向上等を考慮し、判断いたします。』
⇒累進配当とは、減配をせずに、少なくとも前年配当と同額か、または増配を行うという、素晴らしい配当方針のことです。
⇒三井住友FGの配当方針の特長は、なんと言っても、累進配当を行うことを明記し、対外的に宣言している点です!
つまり、対外的に累進配当政策を公約しているわけですから、株主・投資家としては、減配を心配せずに、安心して同社株式を保有することができます。
もちろん、累進配当の方針が変更される可能性はゼロではありませんが、国内・海外の投資家に対して、対外的に宣言しているため、簡単に変更されることはないと考えています。
⇒配当方針で配当性向40%を明言している点も、好ましいです。
配当性向とは、稼いだ利益のうち、どれくらいを配当金として支払うかの割合です。
例えば、配当性向40%であれば、稼いだ純利益のうち40%を、配当金として株主に支払うという意味になります。
配当性向の基準として、どの程度が望ましいかについては諸説あり、一概には言えませんが、だいたいの考え方としては、高配当株なら、以下のような感じです。
・配当性向30%程度で普通
・配当性向40%程度で結構良いレベル
・配当性向60%以上なら、逆にちょっと心配になるレベル(利益を将来のための事業投資に十分使っていない、利益の絶対額自体が少ないため減配の恐れがある)
※配当性向=支払い配当金総額/当期純利益=1株当たり配当金/1株当たり当期純利益(EPS)
※上記の各数値は、各社の決算短信の表紙ページで確認できます。
2.三菱商事
『持続的な利益成長に応じて増配を行う累進配当を基本方針とします。
財務健全性、配当の安定成長、株主還元に対する市場期待の3つのバランスがとれた還元政策を実施します。』
⇒結構あっさりとした記載ですが、やはりポイントとなるのは、三菱商事は累進配当を明記し、対外的に累進配当政策を宣言しているという点です。
この公約が変更されない限り、株主として、三菱商事の株式を安心して持つことができますね。
⇒さらに、「株主還元に対する市場期待」に言及している点は特徴的で珍しいです。他社では、あまり見たことがありません。
株式市場の声にも配慮しますよ、という三菱商事の株式市場を重視する姿勢が素晴らしいです。
⇒直近で、あの世界最高の投資家と言われる、ウォーレン・バフェット氏が三菱商事の株式を買い増していますが、上記のような累進配当政策の公約など、三菱商事の株主還元への姿勢も評価しているのかもしれません。
3.稲畑産業
『1.一株あたりの配当額については前年度実績を下限とし、減配は行わず、継続的に増加させていくことを基本とします。(累進配当の継続)
2.総還元性向の目安としては概ね50%程度とします。
ただし、政策保有株式を売却し、相当程度のキャッシュインが発生した事業年度においては、今後の資金需要や会社の財務状況、株価、マーケットの状況などを総合的に勘案し、上記の総還元性向の目安には必ずしも囚われずに、株主還元を実施いたします。
(*)総還元性向=(配当金額+自己株式取得額)÷連結純利益×100』
⇒減配しない累進配当政策について明記し公約している点が、まず素晴らしいです。減配がないので、株主も安心して保有できます。
⇒総還元性向50%とは、稼いだ利益のうち50%を株主還元(配当や自社株買い)として使うという意味です。株主還元への積極姿勢が好ましい。
⇒「政策保有株式」とは、いわゆる昔からの株式持ち合いのことです。株式持ち合いを解消・売却して入った現金を株主還元にあてると明記しているのも、良い意味で珍しく、評価できる点です。
今年2023年の株式市場は高値圏で好調に推移していますので、政策保有株式の売却時の株価も高くなっている=売却時の利益が増えている、と推定されます。この増えた売却益に基づく株主還元にも期待です。
4.オリックス
『当社は、事業活動で得られた利益を主に内部留保として確保し、事業基盤の強化や成長のための投資に活用することにより株主価値の増大に努めてまいります。同時に、業績を反映した安定的かつ継続的な配当を実施いたします。
また、自己株式取得についても、必要な内部留保の水準を考慮しつつ、経営環境の変化、株価の動向および財務状況等を勘案のうえ、弾力的・機動的に対処してまいります。』
『配当:配当性向33%または前期配当金額の高い方。22.3期通期の配当は85.6円。』
『2024年3月期の配当予想については、配当性向33%もしくは1株当たり通期配当金85.60円のいずれか高い方とします。上記表では、2024年3月期の当社株主に帰属する当期純利益が330,000百万円である場合の配当予想額を記載しています。』
⇒“安定的かつ継続的な配当“とは、年ごとに大幅に配当金を上下させるのではなく、文字通り安定した状態で配当金を継続的に出すという意味です。
例えば、下記の①ではなく、②のような配当金推移の場合、安定的かつ継続的な配当と言えます。
×:①1年目20円→2年目50円→3年目10円→4年目0円→5年目20円
○:②1年目20円→2年目20円→3年目25円→4年目28円→5年目30円
⇒配当金については、年ごとに大きな変動をするのではなく、長期的に緩やかに右肩上がりで配当金額が上がって行くことが望ましいと私は考えています。
よって、安定的かつ継続的という配当方針は、ありがたいです。
⇒さらに、オリックスは、配当は配当性向33%または前期配当金額の高い方にて実施すると明言しています。
24/3期の配当予想も、配当性向33%または85.60円(=23/3期の配当金の額)のいずれか高い方としています。
つまり、少なくとも前期配当と同額の配当を出す(=減配しない)ということですから、実質的には、減配しない累進配当を対外的に宣言したのと同じ意味になります。
これは、非常に評価できる点です。
5.NTT
『株主還元の充実は、当社にとって最も重要な経営課題の1つであり、継続的な増配の実施を基本的な考え方としております。
また、株主・投資家のみなさまにとって、弊社への投資をよりしやすくなることを目的として、2023年6月30日時点で保有されている株式を対象に、2023年7月1日付で、1株を25株に分割することといたしました。
長期保有の株主の皆さまの資産形成にあたっても、魅力のある株式として引き続き選んでいただけるよう、今後も企業価値を高めるとともに株主還元の充実を図ってまいります。』
⇒「株主還元の充実は、当社にとって最も重要な経営課題の1つ」と、NTTが認識しているのは、素晴らしい点だと思います。
⇒「“継続的な増配”の実施を基本的な考え方」とすると書かれていますが、重要なキーワードです。
“継続的“と”増配“という2つのワードが組み合わさっている点がポイントです。
これの意味するところは、基本的に毎年増配を行うということであると考えられます。
基本的というワードがあるため、例外の年(増配を行わない年)もあり得るとの表現ではありますが、株主還元への本気度を感じる、株主にとってありがたい方針です。
そして、実際に、NTTは12期連続で増配を実施してきた実績があります。また、20年以上も減配していません。
⇒NTTの株主還元方針の後半部分に、「長期保有の株主の皆さまの資産形成にあたっても、魅力のある株式として引き続き選んでいただけるよう、今後も企業価値を高めるとともに株主還元の充実を図ってまいります」との記載があります。
ここまで書いてくれている株主還元方針は、なかなか見かけません。
株主還元方針に、このような文言を明記している点からも、NTTの株主還元意識の高さがうかがえます。株主として、安心して長期保有ができますね。
6.三菱HCキャピタル
●配当方針(株主還元方針)[注記経営計画P.6]
『配当性向:40%以上
・株主還元は配当によって行うことを基本とする。
・利益成長を通じて配当総額を持続的に高めていく。』
⇒三菱HCキャピタルは、なんと24年連続増配という素晴らしい実績を持っています。連続増配は、現在も継続中です。
⇒上記の配当方針において、「配当総額を“持続的に”高めていく」とあります。
“持続的に”というところに、連続増配の継続に対する意志を感じます。
「持続的に」とは、「継続的に」と同様の意味と考えられますが、どちらかと言うと私は、持続的の方が、より積極的なニュアンス・できる限り減配はしませんよという下方硬直性のニュアンスが、言外に感じられて好きです。
⇒配当性向が40%以上と高めの数字を明記している点も、好ましいです。
7.東京海上ホールディングス
『当社では、配当を株主還元の基本と位置付け、利益成長に応じて持続的に高める方針としております。
また、資本水準の調整は、ESR水準やM&Aパイプライン、事業環境、ROEターゲット等を総合的に勘案して、機動的に実施する方針としております。』
※ESR:経済価値ベースのソルベンシー比率。保険会社がリスクに対して十分な資本を確保しているかを示す指標のひとつ。
⇒“配当を株主還元の基本”、“持続的に高める”という言葉がある点が、嬉しいポイントです。
⇒「持続的に」とは、「継続的に」と同様の意味と考えられますが、どちらかと言うと私は、持続的の方が、より積極的なニュアンス・できる限り減配はしませんよという下方硬直性のニュアンスが、言外に感じられて好きです。
8.積水ハウス
『当社は株主価値の最大化を経営における重要課題の一つと認識しており、持続的な事業成長による1株当たり利益の成長を図ることはもとより、各年度における利益又はキャッシュ・フローの状況や将来の事業展開等を総合的に勘案し、成長投資の推進と株主還元の充実を図ってまいります。
中期的な平均配当性向を40%以上とする従来方針に加え、株主還元の更なる安定性向上を図るべく、一株当たり年間配当金の下限を 110 円とするとともに、機動的な自己株式取得の実施により株主価値向上を図ります。』
⇒「中期的な平均配当性向を40%以上」と高めの数字で好ましいです。
⇒「一株当たり年間配当金の下限を 110 円とする」とあり、配当金の下限保証をしています。配当金は、どんなに少なくても110円は出すという意味です。
現在(2023.7.7)の積水ハウス株価は2,865円ですから、下限保証の配当金110円だと、配当利回りは3.8%になります(110円÷2,865円=3.8%)
つまり、現在の株価で買えば、少なくとも配当利回り3.8%以上は保証されます。
(ちなみに、同社の24/1期の予想配当金は118円です)
株主にとって、配当金がこれ以下には下がらないという下限保証がされている点は、ありがたいです。
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まとめ
今回は、高配当株企業各社の配当方針を見てきましたが、どうでしたか。
これ好きだなといった感じがする配当方針はありましたでしょうか。
高配当株企業への投資の主な目的は、高い配当利回りかつ年々増配で増えていく配当金を、長期的に継続して受け取ることです。
そのため、投資対象となる高配当株企業の配当方針を把握しておくことは、非常に重要です。
投資先の高配当株企業とは、数十年にもわたって配当金をもらい続ける、長~~~~~いお付き合いになる可能性もありますから。
配当方針の文章を読めば、その企業の株主還元への考え方や本音が透けて見えてきて、興味深いですし、面白いです。もちろん、投資成果にも結び付きます。
上場企業はたくさんありますので、あなたのお気に入りの配当方針を持つ企業が、きっと見つかると思います!
今日も配当生活への道を一歩ずつ進む、ショウでした!
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