これまでの東証フォローアップ会議での議論(下記記事ご参照)を踏まえ、2023年3月31日、東京証券取引所は上場企業各社に対して、PBR1倍割れ改革などに関する通知を正式に発出しました。
本件東証通知は、株主・投資家にとって朗報です!
各企業が、PBR1倍割れなどの改善に取り組むことは、株主還元・配当金の向上や株価上昇につながります。
今回は、本件東証が発出した正式通知について、その内容を確認して、今後の投資方針を考えてみたいと思います。
東証からの通知の内容
2023年3月31日、東京証券取引所は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という通知を、各上場企業に向けて発出しました。
※出所:東証通知資料「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」
上記通知資料から、ポイントを抜粋します。
ーーーーー以下、東証通知資料からの抜粋ーーーーー
・これらの内容は、持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現に向けて重要と考えられる事項をまとめたものであり、規則上の義務付けを行うものではございませんが、上場会社の皆様に、投資者からの期待を踏まえ、積極的に実施していただくことをお願いするものです。
・プライム市場・スタンダード市場の全上場会社が対象です。
・資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、以下の一連の対応について、継続的な実施をお願いいたします。
現状分析 → 計画策定・開示 → 取組みの実行
・計画策定・開示の前提として十分な現状分析や検討を行っていただくことが肝要であることから、開示について具体的な開始時期の定めはありませんが、できる限り速やかな対応をお願いいたします。
・目標とする指標は、自社の状況を踏まえて設定してください。なお、目標の設定に当たっては、具体的な到達水準・到達時期を示す方法のほか、目指すレンジを示す方法や、ROEやEPS(1株当たり利益)の成長率など変化率のトレンドを示す形も考えられます。
・PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安と考えられます。
・改善に向けた方針や目標、具体的な取組みや実施時期の開示にあたって、開示を行う書類・フォーマットの定めはありませんが、たとえば、経営戦略や経営計画、決算説明資料、自社ウェブサイト、上場維持基準の適合に向けた計画などの中で示すことなどが考えられます。
・「計画策定・開示」の実施後も、毎年(年1回以上)、これまでの取組みや成果の状況に関する分析を行ったうえで、開示のアップデートをお願いいたします。
ーーーーー東証通知資料からの抜粋終わりーーーーー
※資本コストとは?
資本コストに関しては様々な議論・論争がありますので、下記説明は、超々ざっくりとした概要であって、異論もあり得るものとしてご承知置きください。
資本コストは、企業が資金を調達する時にかかる費用(コスト)のことです。
銀行からの借入金、社債発行による資金調達、株式発行(増資)での資金調達などにかかるコストです。よって、資本コストは企業ごとに異なります。
つまり、企業は、資本コストをかけて手に入れたお金を使って、自らの事業を行い、資本コスト以上の利益を上げる必要があります。
資本コスト(資金調達時の費用)< 事業利益(事業からのリターン)
上記の式が成り立てば企業は発展し企業価値が増大していきますが、成り立たない(上記の不等号が反対の場合)、企業はジリ貧で企業価値が減少します。
ここでよく言われるのが、ROE(自己資本利益率)が資本コストを上回るべきという考え方です。ROE=当期純利益/自己資本
一般的に、資本コストは6%~7%とされています。
ROEの一般的な目安として、8%程度は欲しいと言われるのは、この資本コストを上回る数字だからという面もあります。
資本コストに関する問題は、借入金や社債のコストは利息が何%(債権者に返すリターン)かは明らかですが、株式発行によるコスト(株主に返すリターン)は明確ではないという点です。
株主が資金を出してくれたお礼に、企業はどのくらいのリターンを返すべきか、はっきりしていません。
理論上は、計算方法は複雑ですが、企業は資本コストを計算することができますが、自社できちんと資本コストを意識しないとできません。
ですので、企業の事業運営上、経営陣の資本コストへの意識が薄れたり、意識されないことも多く、これを東証も機関投資家も問題視しています。
しかし、企業の資本コストへの意識が薄くても、結果的には、事業からのリターンが資本コストを上回っているかどうかは、ROEやPBR(株価純資産倍率)などの経営指標の数値に現れてきます。
東証が、今回の通知で、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた要請に関する指標として、ROEやPBRを挙げているのは、このためです。
東証通知が与える影響
上記内容の東証通知が与える影響として、以下のような点が考えられます。
⇒今回の東証通知は、上場規則での義務付けではなく、要請ベースです。
しかし、通知内容は公表されており、機関投資家・個人投資家や今後の資金調達面への影響を考慮すると、事実上の強制力があります。
企業各社は東証通知について、何らかの対応をせざるを得ないと考えられます。
⇒プライム市場・スタンダード市場の上場企業が対象なので、該当する上場企業は対応を迫られます。
⇒自社の現状分析、計画策定・開示、取組みの実行について、具体的にどのような指標を使うか、どのような計画にするか、どのような形式フォームで開示発表するかは、企業の任意で自由に決められます。
ただし、PBRについては、東証通知の中で、
「PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安」
と、特別に太字で言及されている点から、PBR1倍割れの企業は、少なくともPBRを指標の一つとして含めた改善計画をつくることになると推測されます。
⇒改善計画の開示時期については、各企業に任されていますが、毎年、年に1回以上アップデートして開示する必要があります。
・今回の東証通知につながる東証フォローアップ会議は昨年夏から継続的に開催されていて、その内容も都度公表され、企業側にも準備する時間はあったこと
・今回の東証通知は、3/31付けであること
・3月本決算会社の決算発表は、5月上旬であること
上記の点を考慮すると、3月末を本決算とする会社は、5月上旬の決算発表と同時のタイミングで、今回の東証通知に関する改善計画を出してくるケースも結構あるのではないでしょうか。
同業他社が既に改善計画を発表したのに、自社は出していないという状況は避けたいでしょうし、5月上旬の決算発表と同時なら良いタイミングだと思います。
(但し、現時点で何も準備を始めていない企業は5月上旬には間に合わない)
東証通知を受けた今後の投資方針
PBR(倍)=株価÷1株当たり純資産
ですから、PBRをアップさせるためには、経営効率・事業投資の効率をアップし業績向上で株価を上げるほか、分母の1株当たり純資産を下げればよいことになります。
1株当たり純資産を下げるためには、自社株買いや配当金を増やす(増配)という方法が考えられます。
⇒つまり、PBR1倍割れの企業がPBRの向上に努めることは、株価上昇につながり、その過程で、増配や自社株買いを積極的に実施する企業が増える可能性が高いです。
⇒今後、続々と上場企業各社が、PBRや効率的な経営に関する改善計画を開示発表していけば、国内・海外の機関投資家からも好評価を受け、日本の株式市場に資金が流入することも十分考えられます。
⇒実際に、2023年3月24日、岡三証券グループが、新中期経営計画の発表とともに、新たな株主還元方針の一部として、「PBR 1.0倍を超えるまで、年間10億円以上の自己株式取得を実施」すると発表しました。
そして、翌営業日の同社の株価は、ストップ高となりました。
このPBR1倍を超えるまで自社株買いをするという発表は、明らかに、東証フォローアップ会議での議論を意識したものと考えられます。
⇒このような各種の動きを見越して、今のうちに、PBR1倍割れの優良な高配当株を買っておくことは、有効な投資戦略になると考えています。
具体的には、下記の記事でリストアップしたPBR1倍割れ企業のうち、減配しない累進配当ブラザーズに該当する各社(=三井住友FG・三菱HCキャピタル・稲畑産業・オリックス)を、私は狙っていきます。
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まとめ
今回の東証通知の方向性は、投資家にとって非常に好ましいし、素晴らしい動きだと思います。
個別の企業の株価にとっても好影響ですし、日本の株式市場が大いに盛り上がるきっかけになるかもしれません。
今後、上場企業各社から、PBRや経営効率に関して、どのような改善計画が出てくるのか、非常に楽しみでワクワクします!
自分が保有している株式銘柄や投資候補先の企業だけではなく、それらの同業他社の改善計画を比較して見てみるのも、楽しみです。
各社が、同業他社や異業種のリーディングカンパニーなどの優良な改善計画に刺激されたり、プレッシャーを受けたりして、全体的にどんどん良い改善計画になっていく流れになりそうです。
各社の改善計画の発表が待ち遠しいですが、それもそんなに遠いことではありません。
今のうちに、PBR1倍割れの優良な企業に投資しながら、発表を待ちたいと思います。
今日も配当生活への道を一歩ずつ進む、ショウでした!
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