よく使われる投資指標のひとつに、PBR(株価純資産倍率)という指標があります。
有名な指標なので、ご存知の方も多いと思います。
一般的に、PBRが1倍以下の企業の株価は割安な水準にあると判断されます。
今般、東京証券取引所も、低いPBRの上場企業に関する取組み・改革を開始しました。
この東証の取組みが、PBRに着目した投資のチャンスになり得ると考えています。
今回は、高配当株のPBRについて、書いてみました。
PBRとは?
PBRとは、株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)のことです。
投資の際に、株価が割安か割高なのかを判断する指標のひとつとして使われます。
企業のバランスシート(貸借対照表)は3つの部に分かれていて、資産-負債=純資産 という関係になっています。
ざっくり言うと、企業の資産から借金などの負債を差し引いた、正味の企業の価値が純資産です。
この純資産を企業の株式数で割ったものが、1株当たり純資産(BPS:Book-value Per Share)です。
そして、PBRは次の式で計算します。
PBR(倍)=株価÷1株当たり純資産
ここでポイントとなるのは、PBRが1倍の場合に、株価とその企業の資産価値(解散価値)が等しくなるという点です。
つまり、PBRが0.8倍・0.7倍など、1倍を割れている場合は、会社を解散してその企業が所有する財産を全て売り払った資産(解散価値)よりも株価が割安になっていることを意味します。
例えば、単純化して以下のような会社を想定します。
総資産は現金1億円だけ、負債(借金)は3千万円、株式総数1万株、株価6,000円。
この時、純資産=総資産-負債=1億円-3千万円=7千万円 なので、
1株当たり純資産=7千万円÷1万株=7,000円
PBR=株価÷1株当たり純資産=6,000円÷7,000円=0.86倍
このPBRが1倍を割れている状態では、株式総数1万株を株価6,000円で全て取得して(取得費用6千万円=1万株×6,000円)、会社を解散してしまえば、現金1億円から借金3千万円を返した後に7千万円が残ります。
取得費用6千万円で、7千万円を得られるというお得な状態です。
PBR1倍割れ(0.8倍、0.7倍など)は、上記のような、ちょっと異常な状態を意味し、下記の式が成り立っています。
1株当たり純資産 > 株価
理論上は、PBRが1倍割れの会社であれば、その会社の株式を全て買って、会社を解散して会社が所有する財産を全部売り払ったら差し引きで儲かってしまうという状況です。
よって、一般的に、PBRが1倍を割れている場合は、株価が割安水準にあるという一つの判断基準になります。
ただし、PBRだけを見て、割安かどうか判断するのは危険ですので、PBR以外の投資指標や業績などの数字も合わせて、総合的に判断する必要があります。
PBR1倍割れの状況が何年もずっと続いていて、もはや常態化している企業もあり、その場合はPBR1倍割れでも、必ずしも割安とは言えないケースもあります。
高配当株のPBR
高配当株のPBRの数字がどうなっているか調べてみました。
優良な高配当株として、減配しない累進配当ブラザーズを対象としています。
![](https://haitou-life.com/wp-content/uploads/2022/05/643c41b58ed99d7557512409b331f1bf-160x90.png)
PBRのデータは、ヤフーファイナンスのHPから参照しました。
なお、配当利回りも参考に記載しています。
【高配当株のPBRと配当利回り】 ※2023年1月13日現在
・三井住友FG:0.62倍、4.0%
・三菱商事:0.80倍、3.6%
・稲畑産業:0.74倍、4.8%
・オリックス:0.76倍、4.0%
・NTT:1.52倍、3.2%
・三菱HCキャピタル:0.60倍、4.8%
・東京海上HD:1.50倍、3.6%
⇒7社中5社が、PBR1倍割れの状況です。
ボロボロの会社ならともかく、業績も堅調な優良高配当株企業がPBR1倍を割れている状況は、割安な水準だと考えています。
PBR1倍割れが常態化しているという面もあるのですが、文字通りに配当利回りが高い高配当株が、解散価値を下回るPBR1倍割れの株価水準にあるという状況は、ある種の安心感があります。
優良な高配当株がPBR1倍割れの割安な株価水準であれば、これから株価が下がったとしても下値は知れている、下値は堅いと考えられるからです。
上場企業の低PBRに関する東京証券取引所の取組み
◆フォローアップ会議の設置
東京証券取引所は、2022年7月から、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を設置し、継続的に開催・議論しています。
同フォローアップ会議の目的は、市場区分見直し(プライム・スタンダード・グロース)の実効性向上に向けて、施策の進捗状況や投資家の評価などを継続的にフォローアップし、上場会社の企業価値向上に向けた取組みや経過措置の取扱いなどについて議論を行うというものです。
同フォローアップ会議のメンバーは、エコノミスト、投資家、上場会社、学識経験者その他の市場関係者、オブザーバーとして金融庁・経済産業省が参加しています。
単なる東証の社内会議ではありません。有識者の議論を踏まえて、東証の上場規則改正などにつながっていくような会議です。
◆中長期的な企業価値向上に向けた取組みの促進
このフォローアップ会議の第5回(2022年12月28日開催)において、「中長期的な企業価値向上に向けた取組みの促進」が議論されました。
その第5回フォローアップ会議の資料には、以下のように記載されています。
ーーー以下、上記会議資料から抜粋ーーー
・長年にわたり低迷する日本経済を活性化させていくためには、上場維持基準への抵触の懸念のない、日本を代表する上場会社に対しても、中長期的な企業価値向上に向けた取組をさらに促していくことが重要
・特に、今回の市場再編が上場会社の企業価値向上へ寄与することを目的としているのであれば、全上場会社の約半数がPBR1倍割れやROE8%未満という状況にメスを入れない限り意味がなく、PBRやROEなどの財務指標の改善に向けて、一歩踏み込んだことができるかどうかが本会議の論点
・上場会社における資本効率や株価に対する意識改革を促していくため、例えば、以下のような取組が考えられる。
- PBRやROE等が一定以下の上場会社に対し、資本効率・収益性の改善など企業価値向上に向けた経営方針・取組予定等の開示を促す(又は義務付ける)
- 上場企業のPBRやROE等の一覧を公表
- 企業行動規範等の総合的な点検を行ったうえで、その中で上場会社の責務の整理・明確化
- その他、株式報酬制度の導入の推奨、資本市場に係る研修機会の提供、事例の取りまとめ・公表など、経営者の意識づけに資するための施策を実施
ーーー抜粋終わりーーー
そして、上記の第5回会議に先立って、第4回会議(2022年11月25日開催)において、経済産業省から以下のような意見も出ています。
●経済産業省の意見抜粋
TOPIX(東証株価指数)などの指数について
・企業の自律的な成長を促す観点から、何らかの基準を設定し、構成銘柄を定期的に見直す制度を導入できないか。
・例えば、PBR1倍割れなど投資家から評価されていない企業は、大規模で流動性がある企業であっても、構成銘柄に組み入れない等の措置は考えられないか。また、組み入れる場合、自社の企業価値向上に向けた一定期間の具体的かつ合理的な計画を開示していることなどを条件としてはどうか。
⇒この意見は、PBR1倍を割れているような企業は、TOPIXなどの指数の対象から外してはどうかと言っています。
TOPIXなどの指数から外されると、インデックスファンドや各種の投資信託からの買いが入らなくなるため、当該企業にとっては大問題です。
もし実際にこの意見通りになれば、上場企業は、なんとしてもPBR1倍割れを回避するために、いろいろな経営努力を真剣に行い、株価を上げようとするはずです。
お役所らしからぬ?上記の意見は、経済産業省の本気度を感じさせるもので、投資家としては大歓迎の素晴らしい意見だと思います。
東証の取組みが与える影響
上記の東証の取組みが最終的にどうなるかはまだ分かりませんが、PBR1倍割れの改善施策について、何らかの努力義務や強制措置が東証から上場企業に課される方向になると推測されます。
この影響は非常に大きく、今年2023年のうちにも、上場企業がPBR向上に向けて動き出す可能性が高いと考えています。
PBR(倍)=株価÷1株当たり純資産
ですから、PBRをアップさせるためには、経営効率・事業投資の効率をアップし業績向上で株価を上げるほか、分母の1株当たり純資産を下げればよいことになります。
1株当たり純資産を下げるためには、自社株買いや配当金を増やす(増配)という方法が考えられます。
⇒つまり、PBRの向上は株価上昇につながり、その過程で、増配や自社株買いを積極的に実施する企業が増える可能性が高いです。
⇒実際に、PBR1倍割れの上場企業に関して、東証が何らかの施策を実行すれば、国内・海外の機関投資家からも好評価を受け、日本の株式市場に資金が流入することも十分考えられます。
⇒このような各種の動きを見越して、今のうちに、PBR1倍割れの優良な高配当株を買っておくことは、有効な投資戦略になると考えています。
(万が一、東証の取組みが実施されなかったとしても、優良な高配当株がPBR1倍を割れていれば、お買い得な水準にあることは変わりませんし)
まとめ
上記のように、PBR1倍割れの改善取組みに向けた、東証や経済産業省の本気度はかなり高いと推測されます。
日本の株式市場の魅力度アップのためにも、東京証券取引所にはぜひ頑張って実行して頂きたいです。
今後、高配当株投資にあたっては、PBR1倍割れという基準も意識して、投資していきたいと思います。
(なお、繰り返しですが、PBRだけでは判断できず、その他の投資指標や業績などの数字も合わせて、総合的に投資判断を行う必要があります)
PBR1倍割れの優良な高配当株に投資して、高い配当利回りの配当金を楽しみながら、PBRが1倍以上に水準訂正されて株価が上昇するのをゆっくり待つというのも、なかなかオツなものではないかと考えています。
今日も配当生活への道を一歩ずつ進む、ショウでした!
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