東京証券取引所は、『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について』を、2023年10月26日に発表しました。
これは、各上場企業が、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示したかどうか、リストにして公表しますというものです。
この開示済み企業リストの公表は、まだ開示していない企業へのプレッシャーを大いに高めると想定されます。
本件東証の発表は、投資家にとってグッドニュースです!
株式市場を押し上げる方向へ作用すると考えられます。
今回は、本件東証の発表内容を確認し、今後の株式市場への影響について、考えてみました。
これまでの経緯
今回の措置は、突然行われたものではなく、これまで東証が行ってきた一連の改革の流れに沿うものです。
東京証券取引所は、東証フォローアップ会議において、金融庁や上場企業・有識者との議論を重ね、本年2023年3月31日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という通知を、各上場企業に向けて出しました。
この3/31東証通知は、上場企業に対し、資本コストや資本収益性の向上に関して、以下の取り組みを求めるものでした。
①現状分析 → ②計画策定・開示 → ③取組みの実行 → ④①に戻る
その中で、特に、PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安と考えられる旨が、東証から指摘されています。
※詳細は下記記事ご参照
そして、PBR1倍割れなどの解消策(ROE向上や増配・自社株買いなど)は株価上昇につながるため、国内・海外の投資家に歓迎され、本件3/31東証通知はポジティブな評価を受けています。
これまで、本件3/31東証通知を受けて、各上場企業は、PBR1倍割れの解消策や資本収益性の向上に関する対策について、上記①~④の取り組みを進めてきました。
なお、この通知は、PBR1倍割れの企業だけが対応するものではなく、全ての対象企業が取り組むことを要請されています。
ただし、開示状況や取り組み内容については、各社それぞれで進捗状況が異なっています。
以上が、今までの経緯になります。
今回10/26の東証の発表内容
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について
今回の上記東証のリリース(2023年10月26日付)の内容は、以下の通りです。
●対象企業:
東証プライム及びスタンダード市場の全ての上場企業
●開示企業一覧表の公表:
3/31東証通知における要請に基づき、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関し、各企業がどのような対応を取るか開示済みであるかどうかを、東証ホームページで開示企業リストを公表します。
⇒これにより、既に対応策を取っている企業と、まだやっていない企業がどこか、明確に分かることになります。
誰でも閲覧可能で英語でも開示するので、海外の機関投資家も見ることができます。
⇒2024年1月15日に開示企業一覧表の公表を開始。その後、毎月更新する予定。
●対応のポイント・取り組み事例の公表:
投資家の視点での「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」のポイントと、実際に投資家から好評を得られた取り組み事例について、東証が取りまとめて公表します。
⇒2024年1月を目途に公表する予定。
●コーポレート・ガバナンス報告書への明記:
3/31東証通知では、対応策や取り組みについては、任意の形式・書類で可とされていましたので、投資家としては、開示されているのかどうかや、開示されていても、どの書類の何ページを見ればいいのか不明確でした。これでは探しようがありません。
今までの開示事例だと、決算説明資料に記載して、決算発表と同時に開示していた企業が多いようですが、これも、いつの決算説明資料を見ればよいか分かりません。
よって、今回の10/26東証リリースでは、各社が必ず自社のホームページで開示している「コーポレート・ガバナンス報告書(※)」に以下の点を明記するように要請されました。
①本件対応策や取り組みについて、開示しているか、まだ検討中なのか。
②開示済みの場合、当該開示書類の名前やリンク、ページ数などの情報。
※コーポレート・ガバナンス報告書(CG報告書)
自社のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する事項を記載した書類。上場企業は開示することを義務付けられている。
⇒投資家が、各企業のCG報告書を見れば、当該企業の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を確認できるようになります。
どこを見ればいいのか分からないという点は、投資家として不便に感じていたところですので、この点は、地味ながら、非常に有益な改正だと思います。
(東証さん、最初から明確にしといてくれよ、とも言いたくなりますが)
これまでの実際の開示例
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する、実際のサンプル例として、三菱商事の開示例を見てみます。
●三菱商事は、2022年度決算説明会資料のP.10~P.11にて開示
⇒三菱商事は、「ROE二桁水準を安定維持できれば、株主資本コストを上回ることが可能」とし、そのための施策を述べています。
⇒上記対応の開示をしたことを、三菱商事は、同社のコーポレート・ガバナンス(CG)報告書P.6に、以下のように記載しています。
投資家は、この三菱商事のCG報告書を見れば、どの資料に同社の対応策が開示されているかが分かります。
今回の東証発表は、上記の三菱商事のように、各社のCG報告書へ開示場所の明記も求めています。
今回10/26の東証発表が与える影響
2024年1月15日に開示企業一覧表の公表を東証が開始すると、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関して各企業が開示しているかどうかが、誰でも簡単に分かるようになります。
そのため、対応を開示していない企業や、開示していても対応策が不十分な企業に対しては、投資家、特に国内・海外の機関投資家から、有形・無形のプレッシャーがかかります。
・なぜ、御社は開示していないのですか?
・対応策の中身が不十分ではありませんか?
・御社は、PBR1倍割れについて本気で改善する気があるんですか?
というような質問が、直接的・間接的に機関投資家から出されることが想定されます。
もちろん、外部圧力がかからないと真剣に取り組まないような企業ばかりではない、言われなくても積極的に取り組む企業の方が多い、と信じていますが、
いずれにせよ、日本企業の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が進んでいくことは、日本の株式市場・株価にとって、大きなプラス影響となります。
その対応の過程で、PBR1倍割れが解消されたり、資本効率の向上などが期待されるからです。国内・海外の機関投資家からの評価もアップします。
東証は、2024年1月15日に開示企業一覧表の公表を開始し、その後、1か月ごとに毎月更新しますから、時間がたてばたつほど、未開示企業へのプレッシャーは大きくなっていくと考えられます。
今頃、慌てて開示の準備をしている企業やIR担当者もいるのではないでしょうか。
当然、今回10/26の東証発表の狙いは、外部圧力をかけるといった消極的なものではなく、対応策の開示・未開示のリストや、投資家の支持を集めた対応策の好事例を示すことで、上場企業の資本効率アップを図るという積極的な目的があります。
この積極的な目的は、開示企業リストや好事例の更新が進むにつれて、徐々に上場企業の間に浸透していくと考えられます。ひいては、株式市場・株価の上昇につながります。
なお、東証によると、3月本決算企業のうち、2023年7月中旬時点で、プライム上場企業の31%、スタンダード上場企業の14%が開示済み※とのことです。
※「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について P.7
逆に言えば、3月本決算企業のうち、プライム上場企業の69%、スタンダード上場企業の86%はまだ開示していない、過半数の企業は未開示という状況ですので、今後の改善効果は大きいと期待されます。
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まとめ
上記のように、今回10/26の東証発表は、上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を半強制的に行わせる作用があります。
本件に関する東証の本気度をひしひしと感じます。
このような状況において、きちんとした対応策を開示した企業は、投資家から評価され、株価も上昇すると想定されます。
今回10/26の東証発表は、PBR1倍割れの企業だけを対象としたものではありませんが、投資家としては、PBR1倍割れかつ優良な高配当株を狙っていくのが効率的だと考えています。
PBR1倍割れを解消するには、増配や自社株買いなどの株主還元がストレートに効果的な施策となるからです。
今日も配当生活への道を一歩ずつ進む、ショウでした!
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