配当金や分配金を出す投資商品は、その都度、配当金(分配金)に課税されて税金が引かれてしまうので、投資対象としては不利で良くないとの説をときどき見かけます。
課税を避け、複利の効果を最大限に得るため、配当金や分配金を出さないものに投資すべきとの考え方です。
この考え方を主張されているケースは結構多いですが、私はこれが当てはまるのは、投資対象が同じもので、配当金や分配金が有る・無いで比べた場合だと考えています。
例えば、同じ投資信託Aがあって、そのAのうち、
・分配金を出すもの(投資信託A-①)
・分配金を出さないもの(投資信託A-②)
とを比較して、どちらが投資効果が高いのかを比べた場合は、投資信託A-①より投資信託A-②の方が分配金に課税されない分有利となる、とは言えると思います。
しかし、分配金を出さない投資信託A-②と、分配金を出す投資信託B(投資する対象はAと異なる)や、配当金を出す高配当株Cと比較する場合はどうでしょうか?
この場合、そもそも、課税の有り無しだけで、有利・不利を単純に比較することはできません。
投資信託A-②と投資信託Bは、投資対象など、課税以外の点もいろいろ異なっているからです。
このように、投資商品が違う場合は、一律に全て配当金や分配金を出す投資商品が不利だとは言えません。
そこで、今回は、実際に配当金を出す高配当株と、分配金を出さない投資信託との投資リターン実績を比較して考察してみました。
比較する投資商品
●配当金(分配金)を出さない投資対象
分配金を出さない(実績として出していない)代表的な投資信託として、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)があります。
アメリカの主要な上場会社500社の株価に基づく指数 = S&P500指数(配当込み、円換算ベース)に連動する、低コストのインデックス投信です。
ただし、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)が投資商品として設定開始されたのは2018年7月であるため、運用実績の数字はここ数年分しかありません。
そのため、今回は代わりに、この投資信託が連動するS&P500指数(配当込み、円換算ベース)そのものを比較対象として、ピックアップします。
●配当金(分配金)を出す投資対象
高配当株で代表的な安定銘柄として、NTTをピックアップします。
比較シミュレーション
上記の配当金(分配金)を出さない投資信託の連動指数と、出す高配当株とについて、過去10年間の投資実績リターンを比較してみます。
●S&P500指数(配当込み、円換算ベース)
S&P500指数(配当込み、円換算ベース)の過去10年における年率平均リターンは+19.4%です。※数値はmyINDEXのサイトを参考にしました。
よって、10年前に100万円をこの指数に連動する投資信託に投資していたら、現在589万円になっています。
ちなみに、S&P500指数(配当込み、ドルベース)の場合、過去10年の年率平均リターンは+14.6%であり、10年前の100万円は、現在392万円になります。
上記の円換算ベースと比べると、為替の影響(円安)が結構大きいことが分かります。
※数値はmyINDEXのサイトを参考にしました。
●NTT株式
10年前(2012年4月2日)のNTTの株価は930円です。※株式分割考慮後の株価
現在(2022年4月15日)のNTTの株価は3,751円ですので、10年で約4.03倍になりました。
そして、NTTは配当金を毎年出していますので、配当金に対する課税後(税金20%)に、税引後の手取り配当金を使って、NTT株式に再投資したとして試算します。
また、実際の配当支払いは12月と6月の年2回ですが、試算の便宜上、税引後の手取り配当金の再投資は、1年に1回、6月30日にまとめて行うこととします。
配当金を再投資して株式を追加購入すると、その分、保有株数が増えますから、翌年以降に受け取る配当金総額は増加していきます。
この条件で試算すると、10年前(2012年4月2日)のNTT株価930円で100万円を投資した場合、当初の保有株数は1,075株。
これに、毎年の税引後配当金で追加取得した株数を足すと、現在(2022年4月15日)の保有株数は1,324株になります。
現在のNTT株価は3,751円ですので、保有株数の時価は1,324株×3,751円=約496万円となります。
つまり、10年前に100万円をNTT株式に投資し、税引後の手取り配当金を毎年再投資した場合、現時点では約496万円になっていたという結果になりました。
まとめ
10年前に100万円を以下の投資商品に投資した場合、現在の時価は、
・S&P500指数(配当込み、円換算ベース)→ 589万円 ※為替影響を除くと392万円
・NTT株式 → 496万円
⇒前者の指数の方が、後者の株式より過去10年では有利だったとの結果です。
⇒但し、為替影響を除くと、結果は逆転して、後者の株式の方が有利です。
つまり、ここ10年間、絶好調だった米国株の代表的指数と比較しても、高配当株であるNTT株式は大健闘しています。
※なお、これは忘れがちなのですが、たとえ配当金や分配金を出さない投資信託だったとしても、将来20年後・30年後などに、その投資信託を取り崩す(売却する)ときには、売却益に20%の税金がかかるということです。
無限に税金を繰り延べることはできません。いつか使うために投資しているのですから。
この「将来の売却時にかかる税金」を考慮すれば、配当金(分配金)を出さない投資商品と、出す投資商品とのリターンの差はさらに縮小します。
上記は一つの例ですが、配当金(分配金)を出す投資商品は、課税されて不利だからダメと、一律に単純比較して決め付けることはできないと考えます。
単純比較してもよいのは、あくまでも「同一の投資商品のうちで」、配当金(分配金)を出す・出さないを比較した場合です。
つまり、配当金(分配金)への課税があるかないかの点だけで単純比較できるのは、課税以外の条件が同一である場合だけということです。
例えば、
①全世界型株式指数に連動する投資信託の分配金ありコース
②米国ナスダック総合指数に連動する投資信託の分配金なしコース
⇒上記①②の投資信託を比較検討する場合に、分配金のある無しで単純比較して、分配金があるから①はダメで、分配金を出さない②の方が優れているんだよと言えるでしょうか?
そんな単純に言えませんよね。分配金のある無しだけでなく、投資対象その他の条件を総合的に判断しなければなりません。
考えてみれば、当たり前のことだと思います。
学校の理科の実験で何回もやりましたが、AとBの実験結果を比較する場合、ある点だけを異なる条件にして、それ以外の残りの状態はAとBとで全く同じにして実験します。逆にそうしないと、単純比較することはできません。
なのに、配当金(分配金)を出すと課税される投資商品は不利というよく見かける議論では、他の条件が違うから、課税のある無しだけでは単純比較はできないという当たり前のことが、忘れ去られています。
だから、課税されるので、分配金を出さないインデックス投資信託の方が、配当金を出す高配当株より有利だという論調をときどき見かけますが、それは違うのではと考えています。
投資する商品自体が異なるのだから、単純比較はできないので、税金面の有利・不利だけを比較することにあまり意味がありません。
実質的に行うとしたら、投資対象の中身を比較して、具体的なトータルの投資リターンを検討するしかないと思います。
(なお、高配当株投資の方が、インデックス投資より絶対に優れていると言っているのではありませんので、念のため。)
今後も、私は高配当株への投資をメインにして、長期的観点で投資をしていきたいと思います。
今日も配当生活への道を一歩ずつ進む、ショウでした!
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