金融商品取引法に定められた「大量保有報告書」という制度があります。
この大量保有報告書を活用することで、企業の大株主が、その企業の株式に関する売買をどのように行ったかについて知ることができます。
今回は、大量保有報告書の制度上の仕組みと、合併後の三菱HCキャピタルの株価に関し、大量保有報告書から見える大株主の動きを考えてみたいと思います。
大量保有報告書とは?
企業の発行済株式総数の5%超を取得した場合、その取得者(=大量保有者、大株主)は、その旨を記載した大量保有報告書を国に提出しなければなりません。
5%が基準となっているため、「5%ルール」とも呼ばれています。
この提出は、取得日から5営業日以内に行う必要がありますので、結構期限は早めです。
また、大量保有報告書の提出後、その保有割合が1%以上増加または減少した場合、大量保有の変更報告書を提出しなければなりません。
例えば、発行済株式総数の7%を3月に取得して、その後6月に1%売却して保有割合が6%になった場合、3月の取得時点、及び6月の売却時点で、それぞれ大量保有報告書を提出する必要があります。
大量保有報告書の提出は、金融商品取引法で定められた法律上の義務です。
法律上の規定に違反して、大量保有報告書を提出しなかった大量保有者(大株主)に対しては、懲役などの刑事罰が科される可能性がある、非常に重いものです。
そのため、大口の投資家、特に機関投資家は、基準となる5%ラインの保有について、常に意識して投資しています(なお大量保有報告書の規定は個人株主も対象となります)
大量保有報告書が開示される場所
大量保有報告書は、金融庁の電子開示システム(EDINET エディネット)のHPにおいて、開示されています。
EDINETのHPは、インターネット上で公開されていますので、誰でもアクセスして見ることができます。
EDINETでは、企業名や証券コードでの検索もできます。
なお、大量保有報告書の提出に関する情報は、投資家にとって重要ですので、ヤフーファイナンスや株探などの個別銘柄ページにおいてもニュース記事が出ることが多いです。
三菱HCキャピタルのケース(大量保有報告書の事例)
大量保有報告書の事例として、8593三菱HCキャピタルのケースを見てみたいと思います。
三菱HCキャピタルは、2021年4月1日に、三菱UFJリースと日立キャピタルが合併して誕生した会社です。
三菱UFJリース + 日立キャピタル = 三菱HCキャピタル
この三菱HCキャピタルの大株主の1社が日立製作所です。
もともと日立製作所は、合併前の日立キャピタルの大株主であり、合併により三菱HCキャピタルの株式が日立製作所に多数割り当てられています。
2021年4月1日の上記合併時点で、日立製作所は三菱HCキャピタルの5%超の株式を取得したので、以下の内容の大量保有報告書を4/7に提出しています。
●2021年4月1日時点:保有株数199,062,180株、保有割合13.57%
なお、その内容はEDINETまたは株探HPなどにて、企業名や証券コードで検索することによって、見ることができます。
その後、日立製作所は、三菱HCキャピタル株式を少しずつ売却し、売却株数が保有割合の1%以上に達したので、以下の大量保有報告書(変更報告書)を8/19に提出しました。
●2021年8月16日時点:保有株数183,973,080株、保有割合13.57%→12.54%に減少
さらに、日立製作所は、三菱HCキャピタル株式の売却を継続し、売却で再度1%以上の減少となったので、以下の大量保有報告書(変更報告書)を10/20に提出しました。
●2021年10月14日時点:保有株数169,168,180株、保有割合12.54%→11.53%に減少
⇒大量保有報告書のそれぞれの提出時点(4/7、8/19、10/20)で、われわれ投資家はEDINETでその情報を知ることができますので、大株主である日立製作所が、4月以降徐々に、三菱HCキャピタル株式を売却していることが分かります。
⇒ここ数カ月、三菱HCキャピタルの株価の動きが、緩やかな値下がり傾向であるのは、上記の大株主である日立製作所の売却も影響していると思われます。
日立製作所は、同社の上場子会社の売却を行うなど、日立グループ会社の整理を進めていますので、同社が保有する三菱HCキャピタル株式の売却もその一環と推測されます。
日立製作所がどこまで売却するつもりかは不明ですが、日立の三菱HCキャピタル株式の売却は、今後もしばらく続く可能性があります。
【追記】
※その後、日立製作所は、2022年9月1日、10月21日、12月6日、2023年1月18日、2月27日、3月27日に、それぞれ大量保有報告書を提出しました。
最新の2023年3月27日提出の大量保有報告書によると、三菱HCキャピタル株式について、日立製作所の保有割合は4.40%まで減少しています。
保有割合が5%以下になりましたので、今後の減少については、日立製作所は大量保有報告書の提出義務はありません(再度5%超となった場合は提出義務あり)
よって、日立の保有割合の変化は、外からは見えなくなります。
今後は、有価証券報告書や四季報などで、大株主10位以内に日立が該当する場合には、その保有割合を知ることができます。
【追記】
⇒四季報によると、2023年9月末付けの大株主10位リストに、日立製作所の名前はありませんでした。
10位の保有割合が1.0%でしたので、日立製作所は、三菱HCキャピタル株式の売却をさらに進めて、2023年9月末時点で日立製作所の保有割合は1.0%未満になったことが分かります。
これは、三菱HCキャピタル株式について、大株主だった日立製作所の売り圧力は、既にほとんどなくなったことを意味します。三菱HCキャピタルの株主にとっては朗報ですね。
まとめ
大量保有報告書によって、5%以上の保有割合を有する大量保有者、いわゆる大株主の売買状況を知ることができます。
有名なファンドや企業が大量保有報告書を提出した場合、取得対象企業の株価が急上昇するケースもあります。
大量保有報告書の仕組みを理解して、その情報を活用することで、投資のリターン向上につながると考えています。
今回取り上げた三菱HCキャピタルは、四半期ごとの決算発表によると業績は堅調であるものの、ここ数か月、株価の動きは緩やかな下落傾向にあります。
この株価下落の要因として、上記の大量保有報告書から分かるように、大株主である日立製作所が三菱HCキャピタル株式を継続的に売却していることが、もし大きく影響しているのであれば、逆に今は買いのチャンスとも言えることになります。
なぜなら、業績に問題がないのであれば、大株主の売却が終われば、株価は再び上昇すると見込まれるからです。
なお、上記は一つの仮説ですので、実際の投資にあたっては自己責任で決定してください。
今後も、大量保有報告書の情報を活用して、投資成績の向上につなげていきたいと考えています。
今日も配当生活への道を一歩ずつ進む、ショウでした!
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